空色幻想曲
「まあ知っていたところで、おいそれと『遠見(とおみ)の魔法』が行使できるわけではないですけどね」

「遠見の魔法?」

「『遠く離れた場所の様子を見る魔法』のことですよ。本来、その景色は術者しか見られないのですが。……そこに祭壇があるでしょう」

 職杖でゆっくりと広間の中央を指し示す。
 祭壇の上に大きな浴槽のようなものがあり、大量の水が張ってあった。覗きこんだ水面はまさに曇りのない鏡だ。

「それが水鏡。これを利用すれば遠見の様子を術者以外にも見せられます」

 俺にはただの水に見えるが、恐らく特別な力を持った聖水の(たぐい)なのだろう。

「これでティアニス王女を捜せるのか?」

「残念ですが」

 と、質問を予想していたように肩をすくめて苦笑した。

「先ほども言ったように、そう簡単に行使できる魔法じゃないのですよ。この城では私しか使えないし、かなりの魔法力を消耗します。
 国の行く末を左右する事態でも起こらないと無理です」

「王女の行方不明は国を左右することじゃないのか」

「ははっ、物は言いようですね。王女様はご自分からお姿を暗ませたのでしょう。城内ならお命の危険もありません」

 自力で捜せということか。なら、なぜわざわざ説明したのか。不可解な視線を向けると

「魔法は傷を癒し、防衛や戦闘の補助をするもの。使える者は少ないし制限もありますが、上手く利用すれば戦闘の犠牲を最小限にできます。
 あなた自身が魔法を使えなくても神官と行動をともにすることはあるでしょう。人の上に立つ者ならば、知識は多いに越したことはないですよ」

「ご高説、痛みいる」

 にこやかに説教されてしまった。
 こういう年輩で高尚な人間は説教好きが多くて厄介だな。

 これ以上、薄暗い地下に長居をしたくなくて逃げるように立ち去った。

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