空色幻想曲
 かくれんぼの次は、俺と王女の鬼ごっこが始まった。


 彼女の足は女のわりに速い。スタートダッシュは遅れたものの、あっという間に距離を縮めて迫ってきた。もちろん俺が本気の速度で走っていないからだが。

 彼女の剣が届くか届かないかというスレスレのところで速度を上げた。

 だが、今日は()きはしない。しばらく鬼ごっこにつき合ってやる。
 人が少なめのコースを選んで城中を駆け回った。

 ──……

 駆ける、駆ける。ひたすら駆ける。
 剣が届きそうなところまでわざと近づけては引き離す。

 景色が変わる。目まぐるしく変わる。
 たまにすれ違う人がギョッとした顔で俺たちを見るが、それも一瞬で流れる。

 彼女が(わめ)く。悔しそうに喚く。
 捕まってやるわけにはいかないのだから何を言われても聞こえない振り。

 庭園、大聖堂、エントランス、中庭……と駆け抜け、王宮内の回廊に戻ってきた。
 男の足でかなり速めに走っているのに負けじとついてくる。根性はスッポン並だな。

 だが、流石に疲れてきただろう。ちらりと振り向くと、速度は落ちていないものの肩で息をしている。

(そろそろか)

 本気を出す。
 向かい風が強くなり、追いかけてくる足音が小さく消えていった。
 そのまま回廊の角を曲がってすぐの扉へ飛び込む!

 中に入ると、羽織っていたマントをそっと扉の間に挟んだ。部屋の隅に移動して静かに待つ。

 しばらくして扉の向こうから(せわ)しなく近づいてくる足音。ちょうどこの部屋の前で止まった。

 よしよし。マントの存在に気づいたな。

 黙って扉を見つめていると……
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