空色幻想曲
「きゃあ!」
「ミャア!」

「…………え?」

 太もものあたりに小さなぬくもり。金色の眼をした獣が甘えるようにすりよってきた。

「なんだ、ネコか……。もう、脅かさないでよ」

 力いっぱい剣の柄をにぎりしめていた手で、そっと黒い毛なみをなでる。きもちよさそうにゴロゴロとのどを鳴らした。

 ……かわいいなぁ。

 首には青紫色のリボン。
 子ネコを抱きながら立ちあがると、銀の鈴が小さくチリンと鳴った。
 すると、今度は人の足音がゆっくり近づいてきた。もう一度植えこみに目を向ける。

「まあ、ティアニスおねえさま?」

 草木の陰から現れたのは、まるで等身大のお人形さんみたいな色白の美少女。

「エリーゼ!」

「ごきげんよう、おねえさま」

 少女はしとやかに黒のスカートをつまんでおじぎする。

 私より三つも年下なのに、仕草は立派な淑女(しゅくじょ)そのもの。優雅な動きにあわせて長いウェーブの髪がふわりと揺れた。

──夜空と同じ、藍色。

 彼女は妹ではない。血縁にはちがいないけれど正確には、再従妹(はとこ)だ。

 私は一人っ子だし、ライラ伯母様は若くして亡くなられたから母方の従兄妹(いとこ)はいない。王宮内で一番近しい同世代の血縁者が、このエリーゼだった。

 つまり、正統な第二王位継承者。

『ある事情』のため、継承権はあってないに等しいのだけど……
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