空色幻想曲
 少女はゆっくり歩みよると、紅い花びらのようなくちびるをつぼみの形にとがらせた。

「おねえさま。この前は遊びにいらしてくださらなかったから、さみしかったわ。やはり即位前ともなると、おいそがしいのかしら?」

「ああ、そういえば」とうなずく。
 特に約束をしたわけではないけれど、週二日ある休日のどちらかはエリーゼのところへ遊びに行くのが習慣になっていた。

「ごめんね、エリーゼ。この前はヤボ用があって……」

「ヤボ用……?」

「ちょっとね……」

「あら、わたくしにかくし事をなさるなんて……逢瀬(おうせ)かしら?」

「エリーゼっ、どこで覚えたのそんな言葉!?」

 突然出てきたとんでもない言葉に顔が熱くなった。

 逢瀬なんて、幼い少女が使う言葉としては違和感がある。愛しあう男女が人目を忍んで会ってなにをするか……わかって言っているんだろうか?

 ──いや、エリーゼならわかっていそうだ。

 なにせ彼女は、王国の頭脳(ブレーン)と呼ばれるシュヴァルツ大公の孫娘。そんじょそこらの12歳とは頭の出来がちがっていた。

 正直、私も……負けているかも。
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