空色幻想曲
「この前の七曜日にひろったばかりのノラよ」

「へぇ。ノラだったわりには人なつっこいのね」


 さっきもいきなり飛びついてきたし。背中をなでても全然イヤがらない。
 するとエリーゼは弓なりに整った眉をほんの少しよせた。

「女の人にだけですわ。男の人にはぜんぜん。オスだからかしら?」

「そうなの? 大叔父(おおおじ)様にはなつかないの?」

「おじいさまだけじゃないわ。執事や……あ、おねえさまの騎士も逃げられていたわね」

「騎士って……だれのこと?」

 エリーゼの口から身内以外の人の話題が出てくるのはめずらしい……というか、ほとんどない。

 彼女は『ある事情』のせいで、昼間はめったに出歩けないのだ。関わる人間は限られてしまう。

 私の親衛隊と接点はいっさいないはずだった。

「ほら、新しく親衛隊長になった方よ」

「! ホント!?」

 思わぬ人の話題が出てきて小さな肩につかみかかる。

「いつ!? どこで会ったの!?」

「この子をひろったときに『聖光の森』で。水辺の近くだったかしら。
 ……どうかして?」

「森……そうか、そんなところに!」

『聖光の森』とは王宮のすぐ北にある。外だけどお城の敷地内だから私の行動範囲だ。
 お城の中ばかり探していて、森にいるなんて思いもしなかった。盲点……いや、灯台もと暗し? このさい、どっちでもいい。

「おねえさま?」

「ありがとう、エリーゼ!」

 まっ暗な夜空に希望の星が瞬いた。
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