空色幻想曲
◇ ◇ ◇
エリーゼから思わぬ収穫を得て、足どりも軽やかに自室へもどる途中のことだった。
回廊の柱の陰で数人の女官がなにやらヒソヒソ話をしている。職務の合間のたわいない雑談だろうと、なにげなく横をとおりすぎた。
「先ほど……」
「まあ、“闇色のお姫様”が……?」
偶然耳に入った単語に、はたと立ち止まる。
まもなく女官たちは私の存在に気づき、一礼して駆けていった。
だれもいなくなった静けさが、心に翳を落とす。
“闇色の姫”。
──空色の姫と対になるようにつけられた、エリーゼの呼び名。
しかし、慈愛の女神という意味を持つ私のものとはちがう。
さっきのヒソヒソ話は聞きとれなかったけれど、わずかに耳に入った言葉はもやもやとした陰鬱な気配がただよっていた。
どうして同じ『青』の髪に生まれながら、こうもあつかいがちがうのだろう。
『ある事情』のせいであることは明白だけれど、エリーゼ自身になにも落ち度はない。
頭が良くて、
大人びていて、
超がつくほどの美人で。
でも人とちょっとずれてて、
恋の話が好きで、
かわいい生き物が好きで。
そんなふつうの12歳の女の子なのに……。
エリーゼのことをよく知っている者からすれば“闇色の姫”なんてバカバカしいことこのうえなかった。
回廊の窓から藍色の空を見あげた。
なぜだか……哀しい色だった。
エリーゼから思わぬ収穫を得て、足どりも軽やかに自室へもどる途中のことだった。
回廊の柱の陰で数人の女官がなにやらヒソヒソ話をしている。職務の合間のたわいない雑談だろうと、なにげなく横をとおりすぎた。
「先ほど……」
「まあ、“闇色のお姫様”が……?」
偶然耳に入った単語に、はたと立ち止まる。
まもなく女官たちは私の存在に気づき、一礼して駆けていった。
だれもいなくなった静けさが、心に翳を落とす。
“闇色の姫”。
──空色の姫と対になるようにつけられた、エリーゼの呼び名。
しかし、慈愛の女神という意味を持つ私のものとはちがう。
さっきのヒソヒソ話は聞きとれなかったけれど、わずかに耳に入った言葉はもやもやとした陰鬱な気配がただよっていた。
どうして同じ『青』の髪に生まれながら、こうもあつかいがちがうのだろう。
『ある事情』のせいであることは明白だけれど、エリーゼ自身になにも落ち度はない。
頭が良くて、
大人びていて、
超がつくほどの美人で。
でも人とちょっとずれてて、
恋の話が好きで、
かわいい生き物が好きで。
そんなふつうの12歳の女の子なのに……。
エリーゼのことをよく知っている者からすれば“闇色の姫”なんてバカバカしいことこのうえなかった。
回廊の窓から藍色の空を見あげた。
なぜだか……哀しい色だった。