空色幻想曲
 横からそぅっと覗きこむと、やすらかな寝息を立てている。

(きれい……)

 素直にそう思った。

 彼の造りは、すべてが繊細できれい。

 肩にかかる金糸の髪も、
 伏せた長いまつ毛も、
 異国情緒を思わせる彫の深い顔立ちも。

 こうして眠っていると、黄金律で造られた彫像のようだ。
 目的もそっちのけで魅入ってしまった。

 そよ風に流れるやわらかな髪が、木洩れ日に透ける。太陽の恵みをそのまま閉じこめたような輝き。

 彼のことだから、無造作に伸ばしているだけで手入れなんてまったくしてなさそう。それなのに少しも(いた)んでいる様子はない。

(どこかちがう国の血が混じってるのかな?)

 そもそも純粋な金色の髪は、平民ではあまり見ないらしい。他国ではわからないが少なくとも、ここクレツェントでは。最初に異国の王子様みたいだと思ったのも容姿のきれいさだけでなく、この国の平民にはめずらしい髪色のせいもあった。

「何をじろじろ見ている」
「!?」

 堅く閉じられていたはずのまぶたが開き、片方だけの翡翠がギロリとにらんだ。

 あくびや身じろぎの一つもせずいきなり起きるとは思わなかったからビクリと飛びあがる勢いで驚いてしまった。

──のが、いけなかった。

 世界がひっくりかえって重力に引きずられる!

「きゃあああ────っ!!」

 いくつもの小枝や葉が体中をかすめて頭から地面に──
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