空色幻想曲
「ちょ、ちょっと、どこ触ってるのっ!?」

 巻きついている腕。その一方の手がちょうど……む、胸に置かれている。
 いや、置かれているっていうか、触っているっていうか、そんな生やさしいものではなくて……つかんでいる。

 それはもうしっかり、バッチリ、ガッチリと。

 しかし、あろうことか彼の反応は

「ん? ああ……不可抗力(ふかこうりょく)だ」

 しれっとしていた。

「ふ、不可抗力って!」
「お前をかばってこうなった」

 ──いや、わかってる! わかってるけど、なんでずーっと触りっぱなしなのよ!?

 まさかどこを触っているのか気づいてない……なんてことは、ありえない。
 自分で言うのもなんだけど、胸と背中の区別がつかないようなまな板じゃないわよっ、私は!!むしろ、年のわりには大きめなのが悩みなくらいなのに。

「わかったからさっさと放してよ!」

 顔どころか体中熱くなってきてどうにかなりそうだ。頭に穴があったらそこからピーッって蒸気が噴きでる音が鳴りそうなくらい。

 けれども、耳の斜め後ろあたりでささやかれる彼の声は憎らしいほど落ちついている。

「重くて動けないんでな」

「失礼ねっ、そんな重くな──ってゆーか! 放すくらいできるでしょ!?」

 確かに下じきにしちゃっているから体は動かせないかもしれないけど、この手をどければいいだけだ。というか、放してくれないと私のほうがいつまでたっても動けない。

「できん」

 ──えっ!? 拒否!?

「なんで!?」

 もうありえない。彼の返答はいろいろありえない。次の返答がありえない極めつけだった。
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