空色幻想曲
「なるほどな。あの男は相当強いだろう」

「もちろんよ! フェンはこの国で一番の騎士だもの!」

 まるで自分のことのようにエッヘンと胸を張る。

「将軍やクレツェント騎士団長よりもか?」

「そう言うと、ちょっとちがうかな……。将軍はけっこうな年だから、一番強いのは騎士団長なの。フェンは騎士団長とゆいいつ互角に戦えるのよ」

 地位は一番えらい将軍と同格。
 実力は一番強い騎士団長と互角。
 つまり、フェンネルは名実ともに騎士としてナンバー1ということだ。

「なら、本気で手合わせしてみたいものだ」

「あれ? 入団試験で手合わせしたんでしょ?」

「お互い本気は出していなかった」

「どっちが勝ったの?」

「引き分けだ」
「ウソ!?」

「隠している実力に差があるかもしれん」

「へ、へえー……じゃあ、本気でやったらどっちが勝つかな?」

 素朴な疑問を口にすると、彼は「さあな」と目を伏せた。

 勝負する前から「負ける」なんて言わないだろう。けれど「勝つ」と断言できないくらい、フェンネルの強さが底知れないと感じているのかもしれない。

 私もフェンネルより強い人なんてそうそういないと思うけれど、この人の強さも相当なものだ。英雄の再来というウワサも決して大げさではない。

 ──あ。いた。

 たった一人だけ。
 フェンネルよりも強い人が。
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