空色幻想曲
「……あの英雄カイザーは、フェンよりもっと強かったらしいの」

 ふいに出てきた英雄の名に、彼も「ほう」と関心をよせる。

「歴代の騎士団長の中でも五本の指に入るって。カイザーが騎士団長やってたころ、私は小さかったから闘ってる姿は見たことないけど」

 伝説のように語られてはいるものの、それほど昔の話じゃない。十年くらい前までは王宮にいた。

 年はセージュと同じくらいと聞いたから、当時のカイザーは30前後だろうか。まだまだ現役として活躍できる年齢で、いずれは将軍に……という話もあったのに、突然騎士を辞めてしまったらしい。

 その後、カイザーがどうなったのか、いろいろウワサは飛びかったが真実を知る者はいなかった。

 そんな謎めいたところも、伝説になった所以(ゆえん)かもしれない。

「覚えているのか? カイザーのこと」

「あんまり。ただ、お父様やお母様がすごく信頼してる人っていうのは、なんとなく感じた」

「そうか……」

「あ、フェンは『マジメが服着て歩いてるようなヤツ』って言ってたなぁ」

「そ、そうか……」

 話の一つ一つに感慨深げな相づちを打つ。何事にも無関心というか、どうでもよさそうな顔をするのに、ちょっとめずらしい反応だ。

「やっぱりあなたも、カイザーにあこがれて騎士になったの?」

「まあ、憧れてはいる」

「あなた、その英雄の再来って言われてるのよ?」

「カイザーに比べれば、まだまだだ」

「ふぅん」

 自信を持っている彼にしては、ずいぶん謙虚(けんきょ)なお言葉。
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