空色幻想曲
†風の憂鬱†
Lute side
********************
新月の夜。
これ以上、黒く染まりようもないほどの黒天。
地上の何もかもを跡形もなく貪り尽くすような、真の闇。
──こんな夜は好きじゃない。
自分の奥に潜んでいる闇が溶け出して、そのままドス黒い意識に引きずり込まれそうな気がする。
こんな夜はただでさえ気が滅入るというのに……
「はあ~……」
この重苦しい溜息は新月のせいではない。
ティアニス王女と修行を始めて数日が経った。
すっかり馴染んだいつもの森。
昼は、憩(いこ)いの場として。
夕方は、王女の稽古場として。
そして夜は、俺自身の鍛錬の場として。
闇の中にいると視覚以外の五感が研ぎ澄まされる。
夜の森は、隻眼の俺が鍛錬するのにはうってつけだ。夕方の修行を終えた後はいつもここに残り、自身の腕を磨いていた。
その鍛錬の小休止に、幹にもたれて腕を組み溜息ばかり零していた。
原因は──ティアニス王女。
何かあったわけではない。揉めたとか、怪我をさせたとか、およそ問題といえるものはなく修行を続けられていた。
それこそが一番大問題なのだが。
彼女は根性がありすぎる。
真剣に怯んだのは最初だけで、容赦ない攻撃にも音を上げず、むしろ果敢に攻めてくる。早く切り上げようと怪我をしない程度に体力を奪ってやっても、日が暮れるギリギリまでしぶとく立ち上がってくる。
********************
新月の夜。
これ以上、黒く染まりようもないほどの黒天。
地上の何もかもを跡形もなく貪り尽くすような、真の闇。
──こんな夜は好きじゃない。
自分の奥に潜んでいる闇が溶け出して、そのままドス黒い意識に引きずり込まれそうな気がする。
こんな夜はただでさえ気が滅入るというのに……
「はあ~……」
この重苦しい溜息は新月のせいではない。
ティアニス王女と修行を始めて数日が経った。
すっかり馴染んだいつもの森。
昼は、憩(いこ)いの場として。
夕方は、王女の稽古場として。
そして夜は、俺自身の鍛錬の場として。
闇の中にいると視覚以外の五感が研ぎ澄まされる。
夜の森は、隻眼の俺が鍛錬するのにはうってつけだ。夕方の修行を終えた後はいつもここに残り、自身の腕を磨いていた。
その鍛錬の小休止に、幹にもたれて腕を組み溜息ばかり零していた。
原因は──ティアニス王女。
何かあったわけではない。揉めたとか、怪我をさせたとか、およそ問題といえるものはなく修行を続けられていた。
それこそが一番大問題なのだが。
彼女は根性がありすぎる。
真剣に怯んだのは最初だけで、容赦ない攻撃にも音を上げず、むしろ果敢に攻めてくる。早く切り上げようと怪我をしない程度に体力を奪ってやっても、日が暮れるギリギリまでしぶとく立ち上がってくる。