空色幻想曲
「よぉ、リュート!」

 静寂を破る陽気な声。
 真夜中にいながら真昼の太陽のような明るい笑顔。
 闇がこれほど不似合いな男が他にいるだろうか。

「なんの真似だ……フェンネル」

 重ね合わせた刃越しから睨みつける。

「挨拶だよ、挨拶! 湿気(シケ)たツラしてんなぁ!」

 長剣を納めながらカラカラ笑う様子に、あんたと比べたら誰でも湿気て見えるだろ……と心の中で悪態をついた。

「あんた、国外じゃないのか?」

「誰から聞いたんだ?」

「ティアニス王女だ」

「ああ、そっか。ティアに稽古つけてんだって?」

「誰から聞いた?」

 少し眉をひそめて尋ねると

「門外不出」

 片目をつぶってニカッと笑う。

「なんだ、それは?」

 騎士が王女に剣の稽古をつけるなど周囲に知られてはお互いに厄介だからと、二人だけの秘密にする約束をしていた。

 約束を破ったとは考えたくない。

 ……が、元を正せばこのフェンネルが彼女の剣の師。いや、どうも普通の師弟以上に親密な関係に思える。この男にだけなら秘密を明かしていてもおかしくはないかもしれない。

 などと(いぶか)しんでいたら、真昼の笑顔にスッと雲が覆った。

「勘違いすんなよ。ティアに聞いたわけじゃねぇ。ま、巡検騎士の情報網甘くみんな」

 ──この男、読心術でも使えるのか?
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