空色幻想曲
「どういうことだ?」

 すかさず喰らいつくと、珍しく神妙な顔で語り始めた。

「アイツは本物の戦闘を知らない。なまじ腕があるだけに、無知なまま実戦に参加することがどれだけ恐ろしいか。オマエも騎士なら想像つくだろ?」

 脳裏をよぎった、初実戦の記憶。あのとき経験した恐ろしさは実戦慣れした今も、忘れることなどできない。

 ──忘れてはいけない。

 戦いに身を置く者ならば当然のことだ。

「だが、王女が戦闘に参加するなど……」

「あり得ない話じゃないさ。こんな世の中だ。何より、ティアは父親を魔族に殺されてる」

「! まさか……」

 行き着いた答えに、背筋が寒くなる。
 それを肯定するかのように、藍の瞳が鋭さを増した。

「例えば父親と同じように魔族に遭遇したら黙って護られるお姫さんじゃないことぐらい……わかるだろ?」

 残酷なほど厳しくけれど密やかに同意を投げかけてきた視線に、それ以上の鋭さを持って応えた。
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