空色幻想曲
「だからオマエが必要なんだっ、リュート!」

 今までのらりくらりとかわしていた男が咆哮(ほうこう)にも似た激しさで叫んだ。
 それに一瞬、呑まれる。

「もしものことがあったときアイツを護り抜けるのは──リュート、オマエしかいない」

 見たこともないほど熱い瞳で、今までにないほど静かに語りかけてきた。

「必ず……護ってやってくれよ。ティアを。
 男と男の“約束”だ」

“約束”。

 普段はふざけてばかりの男が初めてまともに放った、真剣な言葉。
 それに……俺は同じ『真剣』で答える。

「言われなくても。王女を護るのは俺だ」

 この約束は、今初めて交わしたものじゃない。騎士を目指し始めたときからずっと、俺の中では絶対に譲れない約束だった。人に笑われても、ただひたすらに貫いてきた。追い求めてきた。

「ああ、それでこそオレの見こんだ男だ! ティアのこと頼んだぜ!!」

 先ほどの真剣さはどこへやら、真昼の笑顔で満足げにうなずく。

 全く本当に切り替えが早いというか……シリアスの続かない男だ。それが素なのか、わざとなのか、一向に読めない。

 ただ一つわかっていることは、この男が『真剣さ』を垣間見せるのは──

 ティアニス王女のことだけだ。

「…………あんたは、ティア……ニス王女と……」

「あ?」

「いや……その……」

 喉の奥がつかえたように言葉がすんなり出てこない。なんだ、これ。喋るのってこんなに難しかったか?
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