空色幻想曲
「じれってぇなぁ。ハッキリ言えよ!」

「あ……愛称で、呼ぶ、仲なのか?」

 急かされて、やっとそれだけ絞り出す。

「そうだな。伯父と姪みたいなもんさ」

「伯父と姪?」

 予想だにしなかった答えに疑念の雲行きが変わった。

 ──この男、いくつだ?

「血の繋がりはない。ただ、アーウィング──ティアの父親とは乳兄弟でね。オレの母親がアーウィングの乳母をやってたんだ」

「なるほど……」

「アーウィングはオレの弟で親友だった。だからティアは、かわいい姪で亡き親友の忘れ形見……ってところかな」

 真剣……とはまた違う。ただ愛おしそうにおだやかに語られた言葉は、それ以上でも以下でもない。言葉通りの意味なのだと理解できた。

 簡単に入り込めるような軽い絆でもないが、俺が想像していた関係とは違ったので、ほっと一息吐くと

「安心したか?」

 ニヤリと笑われた。

「!? ……何がだ?」

「ハハッ、せいぜいガンバレよ! いろいろとな」

『いろいろと』。
 明らかに何かを含んだ言い方。
 寒気に触れていながら顔がカッと熱を発した。

 この男、どうも苦手だ。

 星空と同じ色の瞳は、夜のとばりで己の心は隠しているくせに人の心はさらりと見透かす。

 ──それはなんだか……ずるくないか?

 今思っていることさえ全てお見通しのように、口の端を上げてニッと笑った。

「じゃあな!」

 緋色のマントが(ひるがえ)り遠ざかっていく。
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