空色幻想曲
 と思ったら、すぐ引き返してきた。

「っと、そうそう。オレとここで会ったことは誰にも言うなよ? ティアにもな」

 何かと思えばそんなことか。国外の任務中ならば国内にいたと知られたら都合が悪いだろうし、『守秘義務』もあるのだろう。
 俺にはどうでもいいことだ。

「話す気はない」

「そっか。じゃ、またな!」

 再び翻った(あか)は、駆けているわけでもないのにすぐさま藍の闇に埋もれて溶けた。

 まるで魔法を使ったように。

 騒々しく現れたかと思えば、去るときは音もなく消える。
 真昼の笑みと、夜色の瞳に、底知れない鋭さを隠して。

 ──本当に、妙な男だ……。

 初めからたった独りでいたかのような静寂を取り戻し、俺はまた、深く長い息を吐いた。それは先ほどよりもさらに気だるさを増した……重い鎖に繋がれたような、倦怠感(けんたいかん)

 (うつ)ろな状態で首だけをやっと動かして、頭上を(おお)う闇を振り仰いだ。
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