空色幻想曲
(──っ!?)

 目に飛びこんできたのは黄金律でできた彫像のドアップ。
 驚きすぎて声にならない。あわてて跳びのこうにも身動き一つできなかった。

 なぜって。

 肩にまわされたたくましい腕が、がっしりと捕らえていたから。そのまま胸に抱くようにピッタリよりそって寝息を立てている。

(な、なんでこんなことに!?)

 となりで眠る彫像を見つめながら寝起きの頭をムリやりフル回転してパズルを組み立てる。

 …………

 ………………

 ……………………

 だけど、どれだけ記憶のピースをかき集めてみても肝心な部分はポッカリ空いたまま。

(3m以内に近づくなって言ったのに……)

 3mどころか顔と顔の距離が、およそ3㎝。

 近い。近い。近すぎる。

 お父様とフェンネル以外の男の人とこんなに密着したことなんてない。寝顔は一度見たことがあるけれど、あのときはこんなにドアップじゃなかった。

 キリリとした眉や目は垂れさがって、いつもはムスッとひき結ばれている口もすっかりゆるんでしまっている。ゆりかごにゆられている赤ちゃんみたい。子守唄をうたってあげたいきぶんになる。

 前はきれいだと思ったけど、これはわりと、いやかなり……かわいい……かも。うん。これなら、まだ10代というのもうなずけた。

(命令違反……だけど、これは怒れないわ)

 見なれた深緑の制服じゃなくて薄いシャツ一枚だけのカッコ。消えた上着の行方を探して自分の肩に目が留まる。

(これじゃあ、あなたが風邪ひくじゃないの)

 眠っていてもしっかりと抱いて離さない。身じろぎできないほど力強いのに、てのひらから伝わるぬくもりは優しい。

 冬の冷たさをさえぎるように。ううん、この世のありとあらゆるものから護ろうとしているみたいだ。

 だって今まで男の人にこんなにも、強く優しく、つつまれたことなんて……

 きっと、ない。
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