空色幻想曲
(ええええ!? なになに──っ!?)

 たったそれだけなのに体ごとゆり動かすほどの激しさで鼓動が大きく速く脈を打つ。全身が心臓になったみたいだ。

 さっきと変わらず端正な顔が近い。ううん。さっきよりほんの少し近づいている気がする。

 また変なことしようものなら鉄拳の一つでもお見舞いするところだけど、ほほに触れているのと逆の手は、今も肩を抱いたまま。

 ほんとうは、

 そんなに強い拘束じゃないはず。
 抵抗しようと思えばできるはず。

 なのに……

 ついさっきまで寝ぼけていたとは信じられないくらい、じっと、見つめてくるのは、いたわるように優しい色をおびた

──翡翠。

 このおだやかな瞳に見つめられたら、(あらが)えない。
 魔法をかけられたみたいに。

 顔が近づく。
 吐息がかかる。
 もっと近づく。

 吐息が──熱い。

 自分の体温と、彼の体温と、吐息の熱に、浮かされそうになった

 一歩手前で。
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