空色幻想曲
「申し遅れた。我輩(わがはい)は、クレツェント騎士団長を務めるガンツ=エルハーベンと申す」

 ──クレツェント騎士団長……この男が。

「で? 騎士団長殿が俺になんの用だ」

「ちょ……グレイ隊長!」

 不遜(ふそん)な物言いを騎士の鑑である副隊長がたしなめたが、眼前の大男はそんな小さなことを気にする器ではないだろう。腹の底から絞り出すような声を上げ、豪快に肩を揺らした。

「はっはっはっ! 噂に(たが)わず肝が据わった御仁(ごじん)のようだな。
 リュート殿。是非、貴殿の御手並み拝見したい」

「武器は?」

「無論、真剣勝負」

「その……大剣でか?」

 チラリと大男の背後に目をやった。
 巨躯(きょく)の背中を特等席にして鎮座(ちんざ)するのは、俺の背丈ほどもある両手剣。

──『ツヴァイハンダー』。

 両手剣の中でも機能的に見て最高峰の武器だ。巨漢の彼に似つかわしい相棒といえる。

 しかし、超重武器ゆえに戦闘の型が限られる。敵陣に斬り込んで複数の敵を薙ぎ倒すことに最も威力を発揮するが、的の小さな一対一の手合いには、むしろ不利。

「己の得物(えもの)が一対一の手合いに向かないのは、百も承知。
 だが、其れを云うならば貴殿の得物も充分大剣であろう。条件はそう変わらぬと思うが」

「確かにな」

 不利とわかっていても手合いを望むのは、自信がある証拠だ。
 クレツェント王国随一の実力。

 どれほどの力なのか……知りたい。

「受けて立とう」

「有難い」
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