空色幻想曲
 合図はレガートが名乗り出た。
 鍛錬していた数人に場所を空けてもらい、闘技場の中央で対峙する。

 自分が集中を始めたからか、周りが手合いに関心を持ったからか、絶え間なく鳴り響いていた金属音が徐々に消えていき……広大な闘技場が完全な無音になった──

「始め!」

 張りあげられた声と同時に構える。

 俺は、いつものように剣を片手に下ろし足を一歩前に出したどんな動きにも変幻自在な直立の構え。
 対するガンツは、大剣を両手持ちで右肩に担いだ薙ぎ払いも打ちおろしもできる構え。

 ……が、互いに次の動きに移ることなく止まった。

 大剣同士の勝負──といえども、得物と体格、どれを取っても間合いは向こうが明らかに広い。

 二人の距離を目算すると、相手の剣が俺に届くギリギリ一歩外。

 達人の間合いは、決して侵すことを許されない“聖域”に等しい。迂闊(うかつ)に踏み込めば神の鉄槌(てっつい)が如き手痛い制裁を下されるだろう。

 恐らく考えていることは、同じ。

 どちらが先に聖なる結界に(ほころ)びを見つけるか、
 あるいは、強引に斬り開くか──
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