空色幻想曲
 ──……

 未だ石像のように微動だにしない、二人。時々通り抜ける微風が髪や衣服をわずかに揺らして生身であることを教えるのみ。

 (はた)から見れば戦いは始まっていないと思うかもしれないが、それはこの場で対峙した瞬間からすでに始まっていた。

 王国の頂点に登り詰めてもなお、
 強者を求め
 勝利を欲し
 力を極めんとする──

 獰猛(どうもう)(まなこ)

 赤茶けたそれから発する、みなぎる闘志。

 大男の体が二倍三倍にもふくれ上がって天を()くほど巨大化したような、
もしくは自分が小さくなったような……錯覚におちいらせた。

 耳元にうるさいくらい伝わってくるのは、体の内側から殴られているかのように昂ぶる脈動。

 額から汗が、一つ、(したた)り落ちる。
 反して口の中は熱砂のように干上がっていた。

 ただ向かい合っただけで彼の覇気に五感の全てが圧迫される。気を抜けば押し潰される。並みの者であれば立っているのがやっとだろう。

 それほどまでのプレッシャーの中でこの身に湧き上がってきたのは戦慄(せんりつ)ではなく、武者震いだった。

 眼前に立ちはだかる大男を喩えるなら、雄大な山だ。
 それも、(いただき)から火を噴く寸前の。
 先手を取り、噴火する前に山を斬り崩すのも一つのやり方だろう。

 だが、俺は知りたい。

 地中で煮えたぎる溶岩の炎熱を。
 噴き出す瞬間の躍動を。

 この眼で見て、
 この肌で感じて……
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