空色幻想曲
　しかし。

　剣だけでなく扱う腕も間違いなく、最高峰だ。

　荒れ狂う豪剣は触れるもの全てを塵(ちり)と化す。その凶刃(きょうじん)に触れなくとも近づけば剣の風圧で体の自由が奪われるだろう。攻撃後の隙が大きくなる超重武器の弱点を見事に克服した、攻防一体の大技だ。

　これが、この大男の真骨頂。
　これが、王国一の実力者。

　クレツェント騎士団長ガンツ＝エルハーベン！

　背中に硬いものがあたった。逃げ道を闘技場の壁に阻まれ、剣ヶ峰(けんがみね)[*]に立たされる。

　俺はこの瞬間を


　待　っ　て　い　た　!!


　足を踏み切った直後、壁が斬り刻まれ焼き尽くした灰のように舞った。
　刹那を見誤れば必死確定という奇跡の回避技。

　溶岩の炎熱も熱風も逃れ、空へ──
──そして噴火口に刃を突き立てる！

　遮(さえぎ)ったのは鋼の手甲(てっこう)。左腕を犠牲にした判断力は見事。
　だが、手甲を伝わる衝撃は一時、握力を奪う。

　絶好の勝機！

　着地と同時にガラ空きの左脇下へ斬り上げた。



－－－－－－－－－－－－－－
[*]剣ヶ峰……噴火口の周辺。転じて、少しの余裕もないギリギリの状態を表す。
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