空色幻想曲


 鉄の……(にお)い。


 足元に、点々と、赤黒い染みができる。
 左肩に焼かれるほどの熱を帯び、まだら模様になった土の上へ膝から崩れ落ちた。

 俺の放った一撃は届くことなく、あまつさえ肩口に受けた衝撃で剣を手から放してしまった。信じられないことに右腕一本でツヴァイハンダーを操った大男の一撃が、俺よりわずかに速く討ち込まれたのだ。

 奥歯を噛みしめながら地に伏せていると、重低音が降ってきた。

「良い勝負であった」

(いい勝負だと!? どこがだ!!)

 怒鳴る代わりに顔を上げて睨みつける。
 今までで一番大きく……大きく見えたその男は、大剣にどろりと滴るものを静かに拭き取って背中に納め、遥か頭上から俺を見下ろした。


「済まぬ。貴殿の腕では手を抜けぬ(ゆえ)、加減を誤った。その傷、神官に治癒をかけて貰ったほうが良い」

「大したことはない」

 荒くなっている呼吸を無理やり押し殺して吐き捨てた。片膝をついた土は、まだ嫌な臭いを撒き散らしながら赤黒いまだらを染み込ませている。

「二、三日で治る傷では無い。意地を張らずに魔法で治して貰え。治りが遅ければ、日々の鍛錬にも支障が出る」

「一つ、訊きたい」

「我輩に答えられる事ならば」

「フェンネルは……あんたと同じくらい強いのか?」


 すでに訊くまでもないことを俺は改めて問いかけていた。ただ、王国最強の男の口から聞きたかったのだ。

 真実を。

 手合いのときはあれほど燃える闘志がみなぎっていた赤茶の眼を今は静かに伏せて、深い沈黙。

 それを再び見開いたとき
< 224 / 347 >

この作品をシェア

pagetop