空色幻想曲
     ◇ ◇ ◇

 聖書を読み解き、神話から神の教えと太古の歴史を学ぶ──カンタンにいうと『神学』とはそういう講義だ。

 解釈は、もちろん研究する学者によっていろいろ。主流のものと、二、三、別の解釈も勉強することで視野を広げる……という目的もある。

 なんか小難しくて頭が痛くなりそうだけど、神話が壮大な物語を読んでいるみたいで意外とおもしろいんだ。

 さっきうっかり居眠りしちゃったけどね!

「ある一説によると、癒しを(つかさど)る【慈愛の女神ティルネシア】は生きとし生けるもの全てを愛し、それらの者が犯した罪の全てを(ゆる)した……と言われています」

「すべて?」

 一つ、引っかかった。

「ねぇ、それって──魔族も?」

 すべてを愛し、すべてを赦すというなら、それには魔族もふくまれるのだろうか。

 創世神話というと、ウォルシード暦から逆算したら少なくとも千年以上も昔の話になる。そんな大昔には魔族の『魔』の字も存在していなかった。

 魔族は、五十年前に突然現れた新しい生物だからだ。

 それ以前の歴史をひもといても、魔族に関連のある記録はいっさいない。

 なぜ誕生したのか。
 なぜ人間と敵対するのか。

 確かにわかっているのは、人間(ヒト)型の魔物で、他のモンスターを洗脳したり、自然を操ったり、恐ろしい破壊の力を持っていること。

 誕生は諸説あって、創世神話で出てきた【魔神】のいる魔界から来たのではないか、とする説が有力だ。

 要は、この世界でなく、神々と敵対する側の生物かもしれないわけで。そんなのいくら女神でも、愛し、赦す、なんてできるのだろうか。
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