空色幻想曲
 私のたった一言の質問でも、天才と名高い神官長はなにが訊きたいのか理解できたらしい。自分は女神ではないからわからないが、と一応の前置きをして

「『生きとし生けるもの全て』ですからね」

 形がちがっても、生まれがちがっても、それこそ世界さえちがう敵だとしても、わけへだてなく愛をそそぐのが“慈愛”だと。

 それはまだなんとか理解できるけど……

「じゃあ人を殺しても、赦すの?」

 つづく質問にも迷いなく答える。

「そうなるでしょう」

「そんなの……」


 ──納得いかない。


 湧きあがる、黒い、きもち。
 つぐんだ言葉の代わりに胸の奥から、にじみだしてくる。侵されていく。

 じわり、と不気味な音を立てて。
< 229 / 347 >

この作品をシェア

pagetop