空色幻想曲

†見えない痛み†

Lute side
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 少しふらつきながら大聖堂に足を踏み入れると、ちょうど左奥の扉から二人の男が現れた。俺を見るなり緑髪の若い男が血相変えて叫ぶ。

「あ、神官長様! こ、この人です……!」

「おや。重傷者とはあなたのことでしたか、空姫親衛隊長殿。お一人で歩いて大丈夫なんですか?」

 狼狽(ろうばい)した緑髪とは違い、中年眼鏡の神官長はゆるやかに尋ねてきた。

「このほうが早いと思ってな」

 闘技場には治癒担当の神官が何人か常駐していた。この緑髪もその一人だが、左肩の具合を見るなり「重傷だ!」と騒いで神官長を呼びに走り出してしまった。

 大聖堂がほど近い場所にあったので、止血だけして自分で出向いてきたところだった。

「それはご足労様です。早速、診ましょうか」

 神官長は相変わらずゆったりとした調子で一番近い長椅子に座るよう促した。眼鏡を上げながら服にべっとり染み込んだ血と傷口を確認すると、感心したように一つ大きくうなずく。

「ふむ、平気そうな顔のわりに出血量もあるし傷も深いですねぇ。あと1㎜ずれていたら動脈が切れていましたよ」

 流石は王国一のガンツ騎士団長。見事な紙一重だ。

「神官長様、重傷でしょう!? な、なのに、この人、涼しい顔して──」

「大げさだ」

 血を流している俺より血の気が引いた緑髪を一蹴する。

「ロキは騒ぎすぎですけれど、リュート殿は落ちつきすぎですよ。医学治療なら手術が必要です。充分、重傷ですね」

 なんて言っている中年眼鏡が一番のん気なんだが。

「神官長様! は、早く早く、ち、血がっ、血がぁ……っ!!」

 むしろお前のほうが倒れそうだが、大丈夫か緑髪。
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