空色幻想曲
「痛みは『慣れる』ものではありませんよ。あなたの場合、人より我慢強いだけでしょう」

「問題ないだろう」

「いいえ。医学と一緒で、魔法も万能ではありません。本来、自然治癒させるべき身体に人智を超えた神の超回復をほどこすのは見えない負荷がかかります。
 痛みが残るのは、そのサインなんです」

「副作用か」

「ええ。超回復が身体になじむまで時間が必要です。痛みがあるうちに動くのは、手術直後に傷がふさがらないまま戦うようなもの。繰り返せば確実に身体に損傷を刻んでいきます。
 戦闘中なら仕方ないですが、平時にそんな無茶は神官としても医者としても認められません。
 せめて、今日一日は安静にしてください」

「一日も……無駄にはできん」

 拳を強く握り締めた。

 あの大きな背中に追いつくには、追い越すには……今の俺ではまだまだ足りない。

 説教を振り切って再び出口へ向き直る。
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