空色幻想曲
──ドカッ!!

「~~~~っっ!!」

 声にならない悲鳴をあげて長身が『く』の字に倒れふす。ファンが目にしたら幻滅するほどカッコ悪い姿だ。

 さすがの彼もこれはかなり効いたはず。股間の○○○(下品で失礼)に思いっきりひざ蹴りかましたんだから。

 お約束……じゃなくて、弱点を狙うのは戦いの基本!

「どう!? 女だからってなめないでよね!」

 男と女の違い? 上等よ、教えられるものなら教えてみなさい! 皮肉にも、私が先に教えた形になったけれどね。

 地べたでもだえている彼を見おろして胸をはる。
 次にまばたきをしたら──

──のどもとに冷たく鋭利な感触。

 彼が立ちあがって大剣の刃を突きつけていた。
 私は胸をはった状態のまま固まってしまう。

 ……え?

 今、なにが起こったの?

 さっきまで見おろしていたのは確かに私だったはずなのに。風を斬る音がかすかに聞こえただけで。速い……なんてものじゃない。剣をぬく瞬間すら見えなかった。

「手負いの俺にこの(ざま)だ」
「い、今のはちょっと油断して──」
「実戦なら死んでいる」

 それを言われたら、なにも言いかえせない。
 首筋にあてられた冷たいものがゆっくり離れる。

「今まで俺がどれだけ手加減していたか、わかるだろう」

 これが稽古で一度も出したことがない、彼の本気。
 そして……

 ──力の差。

 ほんとうに言葉どおり体で教えられてしまった。
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