空色幻想曲
 灰色の空の下、色を失くした森を駆けぬける。泥がはねても枝が肌をひっかいてもかまわずに。なにかに……追いたてられるように。

 顔に冷たいしずくが降りかかる。いくつもいくつもほほを伝う。

 天が私の代わりに泣いているのか。いや、(さげす)んでつばを吐きかけているのか。

 ぬかるんだ土に足を滑らせ地面に叩きつけられた。体中にすれた痛みが走って、ぬるっとした液体がまとわりつく。起きあがろうと地面についた手は絞めあげられていた部分が赤くなっていた。

「いた……。ははっ……」

 口をついて出た言葉に、嘲笑がもれた。

 つまづいた足が?
 すりむいた肌が?
 絞めあげられた手が?

 ちがう。

 一番痛いのは、この泥まみれになった体よりも汚くドス黒いきもちに満たされている──


 心。

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