空色幻想曲

†鈍色の風†

Lute side
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「赦せるような慈愛の女神でもないのよ!!」

 駆け出して目の前をすり抜けていく空色の髪。掴もうと腕を伸ばしたが、鈍く、宙を彷徨っただけで。暗雲が覆いかぶさるように小さな空は無彩色の森に消えた。

『お前は、この手で……人を殺せるか?』

 吐き気がした。
 口にした自分でも。

 父親を殺された彼女にこんな言葉を投げかけるのは、どれほど非情な行為かわかっていた。
 それでも非情に徹するしかなかった。

 普通の人間ではない。異形のモンスターでもない。
人間(ヒト)型の魔物”

──それが魔族。

 能力が並外れているというだけで外見は人間となんら変わらないのだ。
 唯一の特徴を除けば。

 それに、魔族の全てが屈強な出で立ちをしているわけでもない。
『弱者』にしか見えない相手にまで無慈悲になりきるのは、戦士でも難しい。
 実戦で本当に必要なのは己の命を賭ける覚悟じゃない。

 ──命を殺める覚悟だ!

 だが


 俺は、行き場のなくした手を宙に止めたまま、ただ立ち尽くしていた。

「……………………ティア」

 囁きは鈍色(にびいろ)の風に掻き消された。
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