空色幻想曲
◇ ◇ ◇
ひとしきり冷たい雨に打たれた翌日。
暗雲は幻のように消え失せ、無彩色だった森は普段のおだやかな色合いを取り戻していた。
いつもの夕暮れ。
いつものせせらぎ。
ただ一ついつもと違うのは……
俺は腕組みをして大樹の梢に体を預け、森の出入口に続く小道を見おろした。藍に染まっていく頭上の空ではなく、地上の小さな青空を探して。
修行を始めて一月近く。何があろうと無断で休むことなど一日たりともなかった。そんなジャジャ馬姫が、日が沈む時刻になっても姿を見せない。
当然といえば当然か。あれほど揉めた後に俺と顔を合わせるのはごめんだろう。
しかし、返ってよかったのかもしれない。
『強くなりたい理由』を知ったときから、もう修行はやめたほうがいいと思っていた。大体、最初から乗り気ではなかった。
彼女に剣を向けるのも、剣を持たせるのも。
──これでいい。これで、いいんだ……
心の中で何度も言い聞かせる。
重たい息を、一つ、吐き出すと優しい空気がふわりと流れた。この季節にそぐわないあたたかな大気が、独りの静けさを慰めるように森の木々をそっと揺らす。
(ああ、平気だ)
人に忌み嫌われるのは慣れている。
無言で息吹に語りかけた。
また、鉛の息を落とす。
この身に忌まわしい血が流れている限り
殺したいほど憎まれているのだから。
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ひとしきり冷たい雨に打たれた翌日。
暗雲は幻のように消え失せ、無彩色だった森は普段のおだやかな色合いを取り戻していた。
いつもの夕暮れ。
いつものせせらぎ。
ただ一ついつもと違うのは……
俺は腕組みをして大樹の梢に体を預け、森の出入口に続く小道を見おろした。藍に染まっていく頭上の空ではなく、地上の小さな青空を探して。
修行を始めて一月近く。何があろうと無断で休むことなど一日たりともなかった。そんなジャジャ馬姫が、日が沈む時刻になっても姿を見せない。
当然といえば当然か。あれほど揉めた後に俺と顔を合わせるのはごめんだろう。
しかし、返ってよかったのかもしれない。
『強くなりたい理由』を知ったときから、もう修行はやめたほうがいいと思っていた。大体、最初から乗り気ではなかった。
彼女に剣を向けるのも、剣を持たせるのも。
──これでいい。これで、いいんだ……
心の中で何度も言い聞かせる。
重たい息を、一つ、吐き出すと優しい空気がふわりと流れた。この季節にそぐわないあたたかな大気が、独りの静けさを慰めるように森の木々をそっと揺らす。
(ああ、平気だ)
人に忌み嫌われるのは慣れている。
無言で息吹に語りかけた。
また、鉛の息を落とす。
この身に忌まわしい血が流れている限り
殺したいほど憎まれているのだから。
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