空色幻想曲
『ヴィクトル陛下がお倒れになりました』
──と。
回廊の最奥、荘厳な扉の前で立ち止まった。
ノックをしようとした拳が止まる。これだけ急いで来たのに、いざたどり着くと扉を開くのをためらってしまう。
胸の大太鼓は鎮まるどころか、なお激しく鳴りつづけていた。
意を決して扉を叩く。
顔を出したのはお祖父様付きの執事ではなく、ラーファルト神官長だった。いつもとはちがう取りつぎに非常事態なんだと思い知らされた。
「お祖父様のご容態は?」
「直接ご面会されたほうが早いでしょう」
と、部屋の中へ招き入れる。
「面会して大丈夫なの?」
私の質問に、細い目をまん丸くさせながら
「侍女殿にお話したはずですが、ご存じありませんでしたか」
「え?『お祖父様が倒れた』としか……、あ」
ちがう。シレネが伝え忘れたのではない。伝える前に私が部屋を飛びだしてしまったんだ。
ああ、またやってしまった。「人の話を最後まで聞け」とダリウスにしょっちゅう叱られているのに。
神官長は、みなまで聞かなくても様子が目に浮かぶという感じで優しくほほ笑んだ。
「お命に別状はありません」
強ばっていた体から、どっと力がぬける。
「そう……よかった……」
「ただ、過労ですから二、三ヶ月の静養は必要です」
「じゃあ、公務は?」