空色幻想曲
「儂がせんで誰がするのだ!?」

 威厳のこもった怒号が部屋の奥から放たれた。
 タイミングがよかったから私に対する返事なのかと思ったけれど。

 奥を覗いてみると、寝台で上半身だけ起こしたお祖父様と、そのそばに大叔父様がいた。どうやら二人がもめているようだ。

「兄上、ご無理はいけません。お歳を考えてください。公務は私と大臣たちで行えばよいでしょう」

「ルード、お前とて似たような歳であろう。たかが七つ差で年寄り扱いしおって!」

 冷静に諭そうとする大叔父様の言葉に、さも心外だという感じで鼻息を荒くした。
 なるほど、命に別状はなさそう。

 ちなみに『ルード』は大叔父様の愛称。国王補佐を務めるシュヴァルツ大公をこのように親しげに呼べるのは、お祖父様だけだ。

「次の公務先は魔族に襲われた被災地だ。こんなときに国の代表が顔を出さなければ民にますます不安を与えるではないか!」

「こんなときだからこそ、兄上の御身(おんみ)に何かあっては困ります」

 そこへすかさず神官長が進みでて賛同する。

「シュヴァルツ大公爵のおっしゃるとおりです。陛下、過労をあなどってはいけません。医者として三ヶ月間の公務はおひかえ願います」

「しかし……っ!」
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