空色幻想曲
 お祖父様は眉間に深いしわを刻ませてうなだれる。

「ライラには可哀想なことをした……。あんなことになるとわかっていれば、もっと好きにさせてやればよかったのだ……それを……っ!」

「お祖父様……」

「せめてお前にはライラの二の舞を演じさせたくはないのだ、ティアよ……」

 シーツをつかんだ拳がかすかにふるえていた。
 お祖父様がこんなふうに、まっすぐ、自分のきもちをうち明けるのはきっと初めて。

 一国の王は私情で物事を判断してはならない、というのが信条だったから。二言目には『国のため』と口グセのように言っていた。

 特に伯母様は、そんなお祖父様によく反発していたらしい。
 お母様と双子でありながら伯母様一人に課せられた修業。負わされた責任。

『体の弱い私よりも自由に見えて自由がなかったのはライラお姉様のほうだったのよ』

 と、いつだったか少しうつむきながらお母様が話してくれた。

 だけど、伯母様が亡くなって、代わりにお母様が女王にならざるを得なくなって。結婚相手として選ばれたのが、カトレア王国の王子として帝王学を学んでいたお父様。

 これもすべてお祖父様が決めたことだ。
 娘は政治の道具でしかないのか、と絶望したことがお母様にもあったという。

 それが大きな勘ちがいだったと気づいたのは、結婚してから。
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