空色幻想曲
「ライラ伯母様のようにはなりませんわ。私には、剣があります!」

 キッパリと言い放った。
 向けられたすがるような瞳に心が痛くなったけれど。
 時間はもどすことも、止めることもできずに、進んでいくから。
 私は大人に護られるままの私で止まっているわけにはいかない。

「ティア……!」

「兄上、ティアニス殿下もあのようにおっしゃっていますし、即位前に視察の経験を積まれるほうが良い勉強になります」

 憤慨(ふんがい)しかけたお祖父様の言葉をさえぎって、大叔父様が援護した。

「ルード! お前まで何を言い出すんだ!?」

「希望の王女が訪れれば、被災地の民もきっと勇気づけられることでしょう」

「その希望の王女に何かあったらどうするのだ!?」

「陛下、そういうときのために優秀な『空姫親衛隊』がございます」

 と、神官長も参戦した。大叔父様は勢いに乗ってたたみかける。

「副隊長レガート殿の実力は兄上もご存じでしょう。新しく就任された隊長殿も、レガート殿に劣らぬ腕前と聞いています」

 すきのない攻撃にお祖父様は「ぐぬぬ……」と(うな)った。
 よし、もう一息だ! と、私も追いうちをかける。

「隊長の腕なら私が保証します。試験でフェンネルが認めたほどですし!」

「陛下の身に何かございましたら、代わりを務めるのはティアニス王女様しかいらっしゃいません」

 神官長がトドメを刺した。わかりきった現実を突きつけるのが、お祖父様には一番効いたようだ。体中をワナワナふるわせた後、やがて力なく肩を落としてつぶやいた。

「……絶対に無茶をするでないぞ」

「はいっ、お祖父様!」
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