空色幻想曲
 そんな心のもやはとりあえず横に置いて。視察の説明を終わらせた後、私は親衛隊員たちに声をかけてまわった。

 隊長のリュートや幼なじみのレガートはともかく、ほかの隊員とはこんなときでもないとなかなか話す機会がない。せっかくだから一人一人に励ましの言葉を贈りたかった。

「ベン、三日間よろしくね。あなたの弓の腕、期待してるわ!」

「はい、ティアニス王女様。この私が必ずご期待に応えてみせましょう」

 金茶のサラサラヘアをなびかせて一礼したのは、一番隊隊長ベン=マルカート。

 レガートの同期で、彼もまた冷静な判断能力を買われて今の役職を手にした。

 剣よりも後方支援を得意とする弓の名手だ。入隊するとき手合わせの代わりに披露してくれたのだけど、あまりの速さと命中率の高さに体がふるえた。
 あの射撃をもう一度目にするのが密かに楽しみだったりする。

「アルス、久しぶりね!」

 ベンのとなりに目を向けると、赤い髪の青年が背筋をシャンと伸ばして敬礼した。

「ティ、ティアニス姫様! オレの名前も覚えててくださったんですか!?」

「もちろんよ」

 一番隊隊員のアルス=ノーヴァ。

 入隊してまだたった半年の新米だ。

 親衛隊員の顔と名前はすべて覚えているけれど、彼は特に印象深かった。
 私の『洗礼』を受けた騎士には大きく分けて二種類のタイプがいる。

 リュートやレガートのように圧倒的な強さで私に傷一つ負わせず勝利するタイプと。
 私に傷を負わせることを怖がって早々(はやばら)と敗北宣言するタイプ。

 アルスはどちらでもなく、ゆいいつ私に傷を負わせて勝利した騎士だった。

 それは、半年前──
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