空色幻想曲
 街道の向こうに点在する灯りが見えてきた。ここまで来れば、エリーゼ姫の眼に頼る必要もなくなるな。

「誘導すまなかった。アルスのことも、礼を言う」

「ええ。今回はやむをえなかったけれど“癒しの力”はあまりアテにしないでね」

「わかった。使いたくなかったのは、そっちか」

 ロキの『あなたは魔法を使えないからわからない』という言葉から察するに、魔法はかなりの労力を消耗するのだろう。ましてまだ年端(としは)のいかない少女だ。大の大人である神官たちが驚嘆するほどの力を使うのは、体力的にも精神的にも厳しいのかもしれない。

……と、一人勝手に解釈したが。

「責めているんじゃなくてよ。ただ……」

 伏し目がちになり、白い顔に(かげ)りが差す。

「おねえさまには見せたくなかったの」

「どういうことだ」

 思わぬ人物の話題が出て、俺は食いついた。
 それに少し躊躇(ためら)うような仕草を見せ、やがてゆっくりと口を開く。

「青系の髪は女神の加護を受けているから魔法の才能を持った人が多いらしいわ。とくに純粋な青い髪は、魔法学をならわなくても“癒しの力”がつかえたりするのよ。わたくしのようにね」

 女神の加護を受けた青髪の力は、魔法力を凌駕(りょうが)した“聖力(せいりょく)”と呼ばれるのだそうだ。

「じゃあ、ティアニス王女も……」

 自然と浮かんできた疑問に、少女は神秘的な藍の髪を揺らして答える。
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