空色幻想曲
「グレイ隊長! ありがとうございました!!」

 叫びながら膝から床に崩れ落ちた。

 ──いや、これはもしや、土下座か!?

「それとっ、今まで隊長に対して一隊員にあるまじき無礼をして、本当にスミマセンでした!!」

 宿中に響き渡るほど威勢のいい声。本当に死に掛けた奴なのか、こいつ。

「おい、なんなんだ……」

 妙な居心地の悪さを感じながらアルスを見下ろした。彼は額を床につけたまま興奮気味に語る。

「オレ……あのときレガートやベン以外みんな諦めてる空気で、正直ふざけんな! って思った。ティアニス姫様の前では『命賭ける』なんてカッコイイこと言ったけど、いざ死ぬかもってなったら本気で怖かったんだ……情けないけど」

「そんなものだ」

 誰しも覚悟をしているつもりでも、それが本物かどうかなんて『そのとき』になってみないとわからない。そもそも死を怖がるのは生物の本能だ。彼の本音を別に情けないとも思わずうなずいた。

「痛くて声も出せなくて、このまま安楽死選んだら仲間全員恨んで化けて出てやる! ってすごい黒い気持ちでいっぱいで……」

 まくしたてている途中で一瞬言葉を詰まらせる。
< 328 / 347 >

この作品をシェア

pagetop