空色幻想曲
「でも、隊長は聞いてくれた……オレの、心の叫びを。『諦めるな!』って必死で生きる道探してくれた」

 微妙に声が震えていた。顔を床につけているから涙まで流しているかどうかはわからないが、感極まっている、といったところか。

「グレイ隊長! 本っ当にっ、ありがとうございましたっ!!」

 またもや宿の客に丸聞こえなのではと思うくらい威勢のいい声で締めくくる。

「わかったから頭を上げろ」

 謝罪とか礼はどうでもいいから、このむずがゆくなるような居心地の悪さをどうにかしてくれ──と、土下座をなんとかやめさせた。

「私からも……今まですみませんでした。アルスを助けてくれてありがとうございます、グレイ隊長」

 ──ベン、お前もか。

 普段と違う態度に慣れない呼称の二連発で、むずがゆさが倍増する。むしろ、新手の嫌がらせなのかと思うぞ。

「礼ならエリーゼ姫とロキに言え」

「え~!? エリーゼ姫様はともかく、ロキにもですか!?」

 アルスが反論するものの、何故か敬語は消えないままだ。

「ロキの力もなければ助からなかった」

「だけど、あいつオレのこと……」

「どちらを選んでもロキには重い決断だったんだ」

 俺もあのときロキにはかなり厳しいことを言ったが、己の魔法で長く苦しませた上に失敗して死なせる場合を考えると、怯む気持ちも理解できなくはない。安楽死を選んでいたとしても、罪の意識からは一生逃れられなかっただろう。
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