空色幻想曲
「水に流せとは言わん。助けてもらった礼だけはしておけ」

 アルスが怒る気持ちは否定しない。ただ、それと感謝するべきところは区別したほうがいい。今後も何かあれば共闘する仲間なのだから、衝突したままではあの気弱な神官のことだ。

 俺のように、どこ吹く風、とはいかないだろう。

「まあ、グレイ隊長がそう言うなら……」
「『グレイ隊長』はやめろ」

 発疹(ほっしん)が起きそうだ。

「へ? じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」

「敬語もやめろ。むずがゆい」

「え~!?」

「……レガート、何を笑っている」

 先ほどから一人で肩を震わせていた銀髪を(にら)みつける。

「いや、だって……どれだけ嫌われても物ともしなかった君のうろたえる姿が見られるなんて、ね」

「何が言いたい」

(した)われてオロオロする君がかわいいなぁ……って」

「悪趣味だな」

 男に「かわいい」などと言われても微塵も嬉しくない。いや、女に言われても嬉しくないが。

 それに俺は人に(うと)まれることは慣れているが、慕われることは慣れていない。しかも、今の今まで疎まれていた連中に。反応に困って当然だろう。
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