空色幻想曲
「グレイ隊長! 本っ当にっ、ありがとうございましたっ!!」

 回廊の角を曲がった奥のほうから、聞き覚えのある元気な声が響いた。

 気になって角からそっと覗いてみると、回廊の真ん中で立ちつくすリュートと、その前になぜか土下座したアルス、その左右にレガートとベンが立っていた。リュートはなんだかすごくソワソワして居心地が悪そう。

 いったい、これはどういう状況なの?

「私からも……今まですみませんでした。アルスを助けてくれてありがとうございます、グレイ隊長」

 つづいてベンが土下座はしないまでも頭を下げた。リュートはやっぱり居心地悪そうにしている。不快とか迷惑というよりは、ただ対応に困っている感じだけれど。

「『グレイ隊長』はやめろ」

「へ? じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」

「敬語もやめろ。むずがゆい」

「え~!?」

「……レガート、何を笑っている」

「いや、だって……どれだけ嫌われても物ともしなかった君のうろたえる姿が見られるなんて、ね」

「何が言いたい」

「慕われてオロオロする君がかわいいなぁ……って」

「悪趣味だな」

 レガートも混じってなごやかに談笑している。いつも凍れる微笑の仮面をつけている幼なじみの、こんなあたたかい笑顔を見たのはどれくらいぶりだろう。

 ほんの、少し、胸がざわついた。
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