空色幻想曲
「……お兄様が、選んだ方ですから」

「お兄様?」

「ご存知ありませんでしたか。フェンネル=アキレアは私の兄です」

 派手な緋色マントの破天荒男が脳裏に浮かんだ。性格は似ても似つかぬほど正反対な気がするが、言われてみれば目が似ている。

 全てを隠すような、全てを透かすような、夜色の瞳が。

(待てよ? シレネの兄ということは……)

 ──あの男、やはりあの顔で30過ぎているのか。いったいどうなっているんだ。この兄妹、不老の血筋か?

 と。今はそんなことを考えている場合じゃない。
 飛びかけた思考を強引に呼び戻した。

「行くぞ。いいな?」

「はい。ティアニス様をよろしくお願い致します」

 全てを託すように頭を下げられた。

 シレネが俺の何に希望を(いだ)いたのかはわからない。ただこの坂道を越えた先に、誰にも会いたくないほど独り打ちひしがれた王女がいるのなら。

 君のもとへ駆けつけるだけだ。
 騎士だから、主従だから、など関係ない。俺が俺自身に課した約束がある。

 ──ティアニス王女の心ごと護りたい。

 叙任式の夜、月明かりの(もと)で捧げた誓いのままに──……

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