空色幻想曲
     ◇ ◇ ◇

(──……ここ、は……?)

 ぶれた視界に灰色の天井が映る。
 首を回すと、壁も床も柱も、天井と同じ灰色。見慣れた褐色(かっしょく)じゃない。

 シーツの海……というより雲にふわりと包まれているような感触から静かに身を起こして、今いる場所を見渡した。

 机と椅子と空っぽの棚。
 (すみ)に備えつけられた暖炉(だんろ)
 天井から垂れ下がっている小さなシャンデリア。

 ゴテゴテした装飾はないが家具の一つ一つが小洒落(こじゃれ)た感じで、どれも見覚えがない。

 目に留まったのは寝台の脇に無造作に置かれている、荷袋と愛用の剣。
 それでようやく、曖昧(あいまい)だった意識が輪郭(りんかく)をなぞるように元の形を取り戻し始めた。

 そう、ここは騎士の宿舎。
 今日から与えられた、新しい俺の部屋だ。

 フェンネルという男が来た後、どうやら大分寝入ってしまったらしい。窓から西日が差し始めている。

(変な夢を見た……)

 悪夢というほどではなかった気がするが内容はよく思い出せない。ただ嫌な汗をじっとりと()いている。あまりいい寝覚めとはいえなかった。

 式典までまだ時間があるが、変な夢のせいでもう眠る気にはなれない。
 持て余した時間を別の方法で潰すことにしよう。
 愛用の剣を手に、部屋を出た。


 宿舎を出てすぐの回廊で、城の女官らしき娘が歩いていた。
 ちょうどいい。

「そこの娘」

「はい? ……まあ!」

 振り向いて目が合うなり、女官の声が1オクターブ上がった。
< 36 / 347 >

この作品をシェア

pagetop