空色幻想曲
「貴女たち! 姿を見ないと思ったら何をやっているの!?」

 怒号(どごう)が回廊に冴え渡る。そのハキハキした声には聞き覚えがあった。

「「あっ、シレネ様!」」

 軍隊が整列するかのようにザザッと気をつけの姿勢になる。

「式典の準備がまだ終わっていないでしょう!? さっさと仕事に戻りなさい!!」

「「はいっ、申し訳ありません!!」」

 司令官並みのド迫力。
 俺に群がっていた働き蟻の軍団は、各々(おのおの)の戦場へ戻っていった。
 その司令官がキリリとした顔で一礼する。俺を謁見の間に案内した侍女だった。

「リュート殿、お騒がせ致しました」

「あんたは、まともだな……」

「女性としては彼女たちの反応のほうがまともだと思います。私は生憎(あいにく)、子供に興味ありませんから」

「子供?」

「一回り以上年下の騎士殿なんて子供のようなものですわ」

 サラリと放った言葉に驚愕した。

 一回り以上……ということは30過ぎているのか。てっきりユリアと同じ20代かと思っていた。いったいどうしたらそんなに若く見えるんだ? あ、ひらひらのメイド服のせいか。いや、何か秘訣(ひけつ)が……

 ──何を考えている、俺は。

 変な思考におちいりかけて我に返った。

「お気をつけ遊ばせ。貴方の容姿は女性を味方につけても、男性を敵に回します」

(きも)(めい)じよう」

「何かご用だったのではありませんか」

「鍛練場に行きたいのだが」

「左様でございますか。では、手隙の者に案内させますわ」

「いや、大体の場所がわかればいい」

「それでしたらご説明致します」

 非常に簡潔かつ的確な言葉で鍛練場の場所を説明してくれた。
「わかった」と、短く答えて背を向ける。

 背中から見送る視線をかすかに感じた。俺は礼の代わりに軽く手を挙げ、その場を後にした。
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