空色幻想曲
「英雄の再来と持てはやされていい気になるなよ」

(“英雄の再来”?)

 金茶の髪の男──ベンの言葉に首を傾げる。いい気になるなと言われても寝耳に水というものだ。

「おい、あんた。なんか言えよ!」

 赤髪の男──アルスが()れたように声を荒らげた。
 別に話すことなどないが、このままでは収まらないだろう。

「無駄な口論をする気はない」
「なんだって!?」

 火を吹き消すつもりが風で(あお)ってしまったらしい。たまらず胸倉(むなぶら)を掴んできた。

「やめろ、アルス! 王宮内で騒ぎを起こす気か!?」

 白銀の男が強く叱咤(しった)した。恐らく彼らより上の立場なのだろう。
 二人は(ほむら)を渋々ながらも鎮火させた。まだ(くす)ぶってはいるようだが。

「アルス。この男はどうせ半年あまりでお払い箱になる運命だ。目くじら立てることもないだろ」

「そうだな。たった半年やそこらで隊長がどれだけ務まるか見物だぜ!」

「半年?」

 疑問を滑り込ませると

「おやおや、知らされてないとは可哀想に」

 問いには答えず、金茶の男は侮蔑(ぶべつ)の笑みを漏らす。

「ベンもいい加減にしろ。もういいだろ」

 三度目の忠告でようやく完全に消火した。
 白銀の男は「向こうへ行ってろ」と二人に目だけで合図し、こちらに向き直る。
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