空色幻想曲
 そっとバルコニーに出ると、夜風に思わず首をすくめた。昼間は暖かったけれど、夜に露出のあるドレスではさすがに厳しい。
 けれど、すぐ(うたげ)()にもどる気にはなれなかった。

 次期女王に取りいろうとする者。
 それを不愉快に思う者。

 華やかな社交の場に見えても、貴族たちの思惑うず巻くあの場は空気がよどんでいる。近づいてくる者がみんな腹に一物かかえているのでは、という強迫観念で気がぬけない。

 暗い夜空をあおいで自分の心をなぐさめるように、そっと……言の葉を旋律に乗せてつむいだ。
 冷たく澄んだ大気が静かにふるえる。

 月明かりがシャンデリア。
 観客は(またた)く小さな星たち。
 虫の声を伴奏にして風が音色を夜空へ運ぶ。

 一人きりの静かなステージには、それでじゅうぶんだった。



 ──歌は好き。


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