空色幻想曲
 視界の(はし)に護るべき主君の姿を(とら)える。

 来賓に囲まれてはいたが、流石に生まれながらの王族だけあって対応は慣れたものだ。華やかに微笑んでいる様子など、昼間のジャジャ馬姫とはまるで別人。

 不意に、王女の態度にかすかな違和感を覚えた。恐らく誰も気に留めないほど些細(ささい)なことだ。
 微笑みを作るときにほんの一瞬よぎる──

──(うれ)い……?

 (あか)りのあたる角度で影の濃さが変わるだけ。たったそれだけの違いのような気もするが……

「先ほどからチラチラとなにをご覧になってますの?」

「あ……」

 指摘され慌てて視線を戻す。が、別の一人がすでに視線の先を追っていた。

「まあ……ティアニス王女様を? このような宴の席でもお気にかけるなんて職務熱心ですのね!」

「王女の親衛隊でいられるのは半年余りしかないのだ。熱心にもなろう?」

 前触れもなく話に割って入ってきたのは、横幅が随分とある高年の男性。
 貴婦人たちがかしこまっているところを見ると、貴族の中でもかなり高貴な爵位を持つ者だろうか。

「貴方は?」

「目上の者に名を尋ねるなら、まず自分から名乗るのが礼儀では? まあ、平民が貴族の礼節を知らぬのは致し方ないか」

 脂ぎった顔に薄笑いを浮かべた。こういう(やから)にいちいち反論するのは面倒臭いだけだ。
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