空色幻想曲
「失礼。リュート=グレイだ」

「私はフリッツ=グランヴィオール。息子のレガートが同じ親衛隊に所属しているので、一言挨拶に参った」

(息子のレガート……)

 鍛練場で会った白銀の男。その父親か。
 ……にしては、似ても似つかないタヌキオヤジだが。

 レガートは女が好みそうな、いわゆる美形だった。どこをどうしたらこんなタヌキオヤジから生まれるのか。

 ──きっと母親似なんだろう。

「グランヴィオール(きょう)。親衛隊が半年余りとは?」

「なんと、ご存じないか?」

 見事に出っ張った腹を大げさにのけ反らせた。どうにも胡散(うさん)臭い。

「ティアニス王女殿下は、16歳の御誕生日に女王に御即位されるのだ」

「成人と同時に? 早過ぎでは……」

 言いかけて、国の現状を(かんが)みれば致し方ないのだろう、という思考に思い至る。

 女王は生まれつき体が弱く、長年、公務は代理として女王の夫君が行っていた。
 だが、二年前に夫君が亡くなり、傷心の女王は不治の病に臥して余命いくばくもないらしい。
 現在は前国王が復帰して女王代理を務めているが、高齢ゆえ一時凌ぎに過ぎない。

 ──ということくらいは、俺もなんとなく知っていた。
 つまり、クレツェントは王不在と言っても過言ではない非常に不安定な情勢だ。

「若くとも王女様は慈愛の女神にしてこの国の希望と謳われるお方。きっと早く王位に就いて民を安心させたいのでしょう」

 貴婦人の一人が丁寧に説明した。

「そうなると当然、空姫親衛隊は解散となる。王女殿下が女王陛下になられるのだから」

 タヌキオヤジの言葉に「なるほど」とうなずく仕草を見せ、再び質問した。

「隊員たちは?」

「ほかの隊や騎士団に配属されて別の任に就くことになるでしょう。単なる異動であって降格するわけではありませんもの」

 タヌキの代わりにまた別の貴婦人が答えた。
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