空色幻想曲
 それを下卑(げび)た笑いで補足する。

「配属は親衛隊時代の功績で決まる。場合によっては昇格も降格もあろう。平民出身でかつ半年余りの任期では、若干不利……。
 お気の毒なことだ」

 ──このタヌキめ!

 本心が丸わかりだ。平民相手に取りつくろう気はないということか。

「そんなことありませんわ。王女様の御めがねに(かな)えば、そのまま女王の近衛騎士(このえきし)になるかもしれませんわよ!」

「まあステキ! そうなれば英雄カイザーをも凌ぐ快挙ですわね!」

 華麗なフォローにタヌキの顔が一瞬(ゆが)む。が、すぐさま

「言うは(やす)し、行うは(かた)し。ご武運をお祈りする。では」

 捨て台詞を吐いて去っていった。
 タヌキの姿が充分に遠ざかってから、貴婦人たちは品の良い仕草で耳打ちする。

「リュート様。グランヴィオール伯のおっしゃることなどお気になさらず」

「ええ、ただの嫌味ですわ。ご子息のレガート様が親衛隊長になり損ねたものだから」

「あ、レガート様はステキな方ですけどね!」

(伯ということは、あのタヌキ、伯爵貴族か……)

 合点がいった。伯爵子息がどこの馬の骨ともわからぬ平民に地位を奪われるなど、さぞかし屈辱(くつじょく)なことだろう。
 だが、今はそんなことよりも……。

「リュート様?」

「申し訳ない。急用ができたので失礼する」

 会釈(えしゃく)してその場を離れた。
< 58 / 347 >

この作品をシェア

pagetop