空色幻想曲
 ひとけのないバルコニーに足を向ける。

 ガラス張りの扉を開けた瞬間、吹き荒ぶ風。陽射しが暖かった昼間に比べて、夜は随分と冷える。その凍てつくような冷たさが、緊張の連続だった俺には逆に心地よかった。

 貴族たちの好奇の目。
 隊員騎士たちの反感。

 覚悟はしていたことだが、周りにいる者全てが敵に見えて心が休まることはない。
 故郷の澄んだ空気に比べて、ここの空気は酷く(にご)っていて息が詰まりそうだ。
 だが、騎士を目指したことに後悔はない。

 ──“英雄の再来”?

 伺い知らぬところで大層な呼称をつけられてしまったが、俺は地位や名誉など毛ほども興味がない。

 そんな幻想的なものよりももっと確かな、力が欲しい。

 どんなときも揺るがない精神力。
 どんな敵も捻じ伏せられる力。

 そして、たいせつなものを護り抜く力……
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